アンカーにつなぐチェーンの効果 アンカーは海底に寝ていたほう(シャンクが海底に横たわった状態)が効く、というのは直感的に理解できます。そのためにアンカーに数メートルのチェーンをつなぐと良い、というのは納得できます。 アンカーロープの角度はなるべく海底に平行なほうが、アンカーを寝せるので、スコープ[1]が大きいほうがアンカーがよく効くというのも理解できます。
しかし、チェーンは重いです。チェーンが有効だとはいえ、むやみに長いチェーンを装備することはできません。小型艇では、チェーンの重さを無視できないです。チェーンが長くなれば、ウインドラス等の装備も必要になります。フネは、ますます重くなります。 大きなスコープを取りたくても、人気のあるアンカレッジや、小さな港でスターンアンカーで槍付けするときはあまり大きなスコープを取れないことが多いです。 どのくらいのチェーンをつなぐと、どのくらいの風速まで耐えられて、どのくらいのスコープだとどのくらいの風速まで耐えられるのでしょうか。その疑問に答えるグラフが野本謙作氏の「スピン・ナ・ヤーン」の45ページにありました。 アンカーは海底と水平に引かれれば、大きな力に耐えられますが、上向きに引かれると簡単に抜けてしまいます。野本氏のこのグラフは、どのくらいの力がかかったときに、どのくらい上向きに引かれるのかが示されています。このグラフを表に直したものをこちらのページに載せました)
野本氏のグラフを元に、30ノット(180Kg)の風に耐えるにはどのくらいのチェーンを使えばいいのかを計算してみました(水深7.5mで、乾舷の高さが1mのフネとしています)。数字が多くて読みにくいと思いますがご容赦ください。
・スコープが3倍の場合:スコープが3倍だとアンカーラインは、水深7.5m+乾舷1mの3倍で、25.5mになります。この25.5m全部が10mmのチェーンだとしても、30ノット吹かれると、アプローチ角[2]が11.71度に達してしまい、アンカーは抜けるでしょう。6mmのチェーンの場合はアプローチ角が16.38度です。問題外です。ちなみに、この16度という角度は、10mmのチェーンを約5mつないだときと同じです。
スコープが3倍では、10mmのオールチェーンでも30ノットの風に耐えることはできません。
・スコープが4倍の場合:スコープが4倍だとアンカーラインは、水深7.5m+乾舷1mの4倍で34mになります。この場合は、10mmのチェーンならアンカーラインの半分の17mあれば30ノットの風に耐えられます。30ノットの風の中で、アプローチ角度は6.57度です。6mmのチェーンでは、アンカーライン34m全部がチェーンでもアプローチ角が10.34度になります。走錨すると考えていいでしょう。スコープが4倍では、10mmのチェーンが17mで30ノットの風に耐えられますが、6mmのチェーンはオールチェーンでも耐えられません。
・スコープが5倍の場合:スコープが5倍だとでアンカーラインは、水深7.5m+乾舷1mの5倍で42.5mになります。6mmのチェーンでもアンカーライン42.5m全部がチェーンなら30ノットの風に耐えられます。そのときのアプローチ角は6.31度です。10mmのチェーンなら、アンカーラインの全長の20%の8.5mで足ります。そのときのアプローチ角は6.78度です。
・スコープが7倍(((水深7.5+乾舷1)の7倍)=59.5m)の場合:スコープが7倍だとアンカーラインは、水深7.5m+乾舷1mの7倍で59.5mになります。6mmのチェーンを12m使うだけで、アプローチ角は5.56度です。ここまでアンカーラインを延ばせれば、6mmのチェーンでも走錨の危険は少ないです。10mmのチェーンなら8.4mでアプローチ角は3.53度です。
30ノット(180Kg)の風に耐えるためのスコープとチェーンの長さのおおよその関係は次の表のようになります。カッコの中は、その長さのチェーンの空中重量です。チェーンの空中での重さは10mmが2.3Kg/m、6mmが0.92Kg/mとして計算しています。
こうしてみるとアンカーを確実に効かすには、チェーンの長さ延ばすよりも、できるだけスコープを延ばすほうが有効だと言えます。
去年(1999年)の11月にニュージーランドでチャーターした艇のアンカーはたぶん45lb(20.4Kg)のCQRで、アンカーラインは8mmか9mmのオールチェーンでした。これで水深7.5mのところにスコープ4倍でアンカリングすると風速35kt(約250Kg)の力まで耐えられます。(ニュージーランドでチャータークルーズしたときの話はここにあります)
チェーンのメリットとデメリットチェーンの利点は擦れに強いということです。このため海底に這わせても擦れて切れるということはありません。これは重要なポイントです。アンカーラインが切れてしまっては、スコープ云々の話どころではありません。 チェーンは力がかかっても伸びません。アンカーラインの全長にわたってチェーンが使われると、アンカリングにかかる力が直接艇体に影響します。風が弱いうちは、海底に沈んだチェーン自体の重さがクッションになるので、すぐに艇体に力がかかるわけではありませんが、最後はダイレクトに艇体に力がかかります。 アンカーラインをオールチェーンにするよりも、適切な重さのチェーンとナイロンロープの組み合わせが現実的な方法だと思います。それはナイロンロープの伸びによるクッションの効果を期待できるので、アンカーとボートに掛かる最大負荷(ピークロード)を軽減するからです。この場合の問題は、アンカーライン全長にわたっての擦り切れに対する耐性です。
チェーンの長さ/重さは?海外では、艇体と同じ長さのチェーンがシャンクを海底に平行にする、という話があるそうです。また、アンカーと同じ重さのチェーンをつなげばいい、という話もあるそうです。
・艇体と同じ長さ艇体と同じ長さのチェーンという意見に従うと、唐草には8mのチェーンということになります。水深7.5mで、10mmのチェーンを8mが耐えられる風速は以下のようになります。
10mmのチェーンを8mだと、空中重量が18.4Kgです。これは、18Lのポリタンクに水が入っているのと同じです。これにアンカーもつながってます。考えるまでもなく重いです。
・アンカーと同じ重さもう一方の説のほうに従って、アンカーと同じ重さのチェーンをつなぐとどのくらいの風速まで耐えられるのでしょうか。10Kgのアンカーを使うとすると、10mmのチェーンが5m(11.5Kg)で釣り合います。10mmのチェーン5mが耐えられる風速は以下のようになります。
これではちょっと心許ないですが、通常[3]の使用には問題ないと思います。(23kt吹いてもアンカリングしますか?)
唐草の場合唐草では、二つの言い伝えの両方を取り入れようと思っています。つまり、艇長と同じ長さのチェーンとして、6mmのチェーンを8m。そしてアンカーと同じ重さのチェーンとして10mmのチェーンを5mです(10Kgのアンカーはまだ持ってませんが)。通常は片方のチェーンだけを使って、風が上がりそうなときは両方のチェーンをつないで使おうと思います。この二つのチェーンをつなぐと、10mmチェーン8mと同じ重さになります。 6mmのチェーンは3mづつ2本にしておけば、アンカーチェーンとして使わないときは、係留時の擦れ止め等に利用することができるので、無駄にはならないと思います。しまう場所や扱いやすさ等も含めてテストしてみたいと思っています。 チェーンの材質は亜鉛メッキされたものを使おうと思います。これまでの計算から、チェーンの材質にステンレスを必要とするほどの負荷はかからないからです。例えば、亜鉛メッキされた6mmチェーンは約550Kgの負荷に耐えます。この負荷は約52ktの風速と同じです。同じ6mmのステンレスチェーンは約700kg負荷に耐えますが、これは59ktの風速と同じです。
最後に唐草のチェーンが耐えられる風速を計算して表にしてみました。
・水深5m
・水深7.5m
・水深10m
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