19-JAN-1993

今年の社会人ラグビーの決勝はとてもいい試合だったと思います。感動しました。 その感想です。


今年の東芝府中は強い。東芝府中の2回戦、新日鉄釜石戦でそう思った。 私はV7時代からの新日鉄釜石のファンなのだが、東芝府中戦では力の違いを感じた。 東芝はいいデフェンスをしている。

今年は、東芝も神鋼も個人技とチームプレイが融合している。 チーム全体が一人のプレーヤーのようだ。美しい。 一人一人が状況に応じた判断をしてボールを繰り出すと、 チームメイト達がちゃんとその動きに応じている。 それを防御する側もその動きに反応してついてくる。そして相手のミスをつく。 攻撃側はそのミスをフォロー、リカバーして連続攻撃につなげる。

連続攻撃に対して連続防御である。

ミスのない試合などない。それをリカバーする力が 試合での強さをつくっている。

それにしてもリカバーには限界がある。 特に相手の伎倆が高いと、リカバーする前に潰されてしまう。 例えば今回の試合の場合だと、試合開始後間もなくのファーストスクラムから 平尾からウィリアムズへのパスはよくなかった。 ウイリアムズは平尾のパスを受けるためにちょっと減速せざるをえなかった。 平尾のミスである。しかし、その後のウイリアムズがそのパスの失敗を補うべく ステップとハンドオフで東芝の選手をかわすが、ゴール前でつかまってしまった。 ウイングへのパスは、スピードに乗って走ってくるウイングを 更に加速するようなパスがベストである。

前半32分に両軍通じて神鋼が初トライ。

このトライはスタンドオフ薮木の2度にわたる縦への突進が光っていた。 2度目の突進が、このトライに大きく結び付いたと私は思う。 右にデフェンスラインができてると見るや、パスするふりをして自分で突進。 タックルを受けてボールをダウン。ポイントを作る。 東芝の選手が素早く集まってくる。 ラックからのボールをスクラムハーフ堀越が今度は左の平尾にパス。 右、左、と揺さぶられた東芝の選手の防御の体勢が崩れた。 平尾は東芝が態勢を立て直す前に2人飛ばしてウイングの富岡にパス。 トップスピードに乗った左のウイング富岡がノーマーク。これで決まりだ。 富岡が力強い走りでゴールへ飛び込みトライ。 今度の平尾のパスはよかった。富岡のスピードが死ななかった。 解説の宿沢は平尾のパスを褒めていたが、私は薮木の2度目の突進に結びつく判断と 突破力が素晴しいと思う。

前半37分に神鋼は2度目のトライを奪う。

ラインアウトから相手ボールを奪いフォワードがサイドを突く。モールができる。 モールから出たボールを堀越は薮木に山なりのゆっくりしたパスを出した。 これを受けた薮木は数メートル縦に走って素早く平尾にパス。平尾は一旦中へ走る。 薮木とクロスした。 守備のラインが中へ寄ってくる。 平尾はそれと反対に今度は外へ向かって走る。東芝の守備が乱れた。 再び左端の富岡がノーマークになる。平尾はこれを逃さず富岡にパス。 富岡は豪快な走りでゴールへと走り込んでトライ。 もしここで平尾が東芝のデフェンスにあっても 平尾の後ろに赤いジャージが3人もいる。まだまだつなげる。神鋼の底力だ。

後半3度目(?)の東芝府中のペナルティキックがゴールポストに当たった。 東芝府中のロックは、小暮に変わって入ったばかりの18番臼井だ。臼井がそのボールを押さえてトライ。 黒沢は狙ってゴールポストに当てたわけではない。 臼井はペナルティキックと共に全速力で走り出したに違いない。 無駄な走りになるかもしれないのに全速力で走る。すごいことだ。一緒に東芝のウイ ング三浦も同じくらいのところに走っていた。赤いジャージーの中に突っ込む2人の 青いジャージー。トライしたのは臼井だが、三浦もえらい。 これで20ー19である。残り時間は13分。こんなのは同点と同じだ。

それから先の攻防も素晴らしいものがあった。

ウイリアムズのコーナーめがけてのダッシュや、 ゴールラインぎりぎりのラックを押し込もうとする神戸製鋼。守る東芝。 東芝ゴール前での攻防。 その攻防の中で神鋼がペナルティキックを得たが そのイージーキックを外してしまう富岡。 ボールはゴールポストに当たった。 秩父の宮ラグビー場が割れんばかりの歓声と悲鳴に包まれる。

東芝も攻められてばかりではない、神戸製鋼陣を脅かす。時間はあと2分。

そしてノーサイド。神鋼が勝った。

1秒あればいろんなことができる。試合の状況は素早い早さで目まぐるしく変化 しているのに、両チームとも落ち着いてプレーしていた。 そして東芝も神鋼もいい防御力を持っていた。 防御が下手な試合は見ていて全然つまらない。緊張感がない試合になってしまう。


【目次】