920227
金曜日に鼈(すっぽん)を喰いに行った。 生まれて初めて喰った。爬虫類を喰ったのも初めてである。 これでいままで喰ったことのある生きものは、 昆虫、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類である。だからどうしたんだ。 喰いに行ったメンバ全員がすっぽんバージンだったので、お店におまかせの コースを頼んだ。すっぽん1匹まるまる使って一万三千円である。 4人で行ったので、ひとり三千二百五十円である。
コースのしょっぱな、まず生き血が出た。生き血といっても生臭いものではなく、
赤ワインの中に血を混ぜた、というものである。ワインの味のほうが強い。
臭みとかはないが、多少ネットリした感じがする。これは気のせいかもしれない。
味はワインの味を動物的にした、というようは感じである。
すっぽんの生き血を俺は今飲んでいる、と思うとI田氏の言葉が重みをもって
思い出される。 次は心臓と肝臓とお肉の刺身が出た。 俺はこういうナマ関係が苦手であるというのをあらためて認識した。 俺はなんでも喰う、生きものは喰うために殺す、を自分のモットーとしているので こういう状況では葛藤が生じるのである。 しかも喰わず嫌いというのは大人として恥ずべきだとも思っているのである。 喰ってから好きか嫌いかを判断すればよろしい[1]。 [1]とはいえ、生肉はちょっとなぁ。 一つしかない心臓はO寺氏が喰った。 俺は肉を喰ってみた。ワサビ醤油で喰った。 赤身の魚の刺身に似ている。赤身でも安い赤身という感じである。 それほど旨いものではない。 卵巣が出た。銀玉鉄砲の玉くらいの大きさから、鉛筆の太さくらいの大きさの 丸い玉が葡萄の房ように連なっていた。色は山吹がかった黄色である。 房のところどころに血管の名残が赤く残っている。 2、3個箸で取り分けて口に入れてみた。口のなかでプリプリしている。 このまま呑み込んでは味がわからないので、奥歯でプチッと噛んでみた。 鶏の卵黄よりも濃厚でクリーミーな味が広がった。甘さも強い。臭さはない。 茶碗蒸しが出た。 具はすっぽんの皮のようなものだった。甲羅かもしれない。しいたけを半分に切った くらいの大きさだった。外側は濃い緑色で内側が半透明のゼラチン状のものだった。 味よりも、歯ざわりのシャキコリという感じのほうが印象的であった。 やっと鍋である。 鍋には足とその付け根のあたりが入っていた。他に正体不明の部分もあった。 鍋に入ってた肉の味は、秋田の比内鶏に近い。繊維がしっかりしていて歯ごたえがあ る。水っぽさがない。肉の回りにはゼラチン質のプヨプヨしたものがある。 それは薄味だが甘味がある。鰤(ブリ)や鮪のカマのゼラチン質の味とほぼ同じである。 鍋の味付けはちょっと濃い目の醤油味だった。 鍋の具を喰い尽くしてから、雑炊になった。なんということもない雑炊[2]だった。 汁の分量に対してご飯が多すぎる感じがした。もうちょっと汁気が多いほうが 雑炊らしくなると思う。味は醤油がキツ過ぎた。 [2]鍋のあとの雑炊といえば、東池袋の「千葉」というフグ屋の雑炊は旨かった。 汁の味がいいし、ご飯と汁のバランスも適量である。 卵の固まり具合もいい。絶妙である。あと10秒火を通したら卵が固まり始める というギリギリのところである。卵が半固まりの状態である。 ポイントは煮立つ直前で火を止める、というところだと思う。 鍋料理のあとの雑炊の作り方はこの店で覚えた。 初めてすっぽんを喰うので、知らない味の世界に期待を持っていたのだが、 やや肩透かしを喰ったような気がする。たぶん店のせいだと思うが。 |