27-JUN-1989
ヨットの種類とヨット乗りの種類について『見栄講座』風に説明します。 艇の種類で分類するとヨットには大きくわけてクルーザーとディンギーの2種類 があります。 クルーザーはドッグハウスまたはキャビンと呼ばれる船室を持っています。そこ で寝泊まりしたり食事をしたりそのほかいろんなことができます。大きさはだい たい 19 フィートから、知ってる限りでは、282 フィートまでの大きさがありま す。もっと大きいのもあるでしょう。価格は数十万円から上は天井知らずです。 一方、ディンギーは船室を持たない小型ヨットです。大きさは 10 フィート位か ら 19 フィート位までです。価格は十数万円から百数十万円位ですが、ディンギ ーとはいえ特殊なタイトルのかかったレース用の艇は数千万円から億単位です。 ヨット乗り別に大きく分けてみると、ブルー・ウォータ派(以下 BW 派と略しま す)とレース派に分かれます。 BW 派というのは、比較的天候の良い時に出艇してヨットで遊んだり、 初夏のサ ンセット間際の、誰が見たって感動する風景、サンセット・サマーを利用してオ ンナのコを口説いたりします。クルーザーもディンギーも BW 派の考えているこ とは同じです。この場合、ディンギーはオープン・デッキ・クルージングと称し ます。 BW 派のスケベ心は、ディンギーもクルーザーも変わりがありません。 ディンギーの BW 派は、一人乗り、または二人乗り(三人以上乗るように設計さ れているディンギー非常に数が少ないです)のディンギーに大勢乗せて夏のシー ズンだけヨットに乗ります。そのときの BW 派の服装は水着にライフ・ジャケッ ト(日本語では救命胴衣、略して通常ライジャケと呼ばれます)、足はハダシで す。 ディンギーの世界で BW 派にもレース派のも属さない、しいて派を作ればヤマハ 派という派があります。特にヤマハのシーマチンが彼らのお気にいりです。彼ら は、夏の波が穏やかで、風も穏やかな日にのみ出艇し、他のヨットマンが日焼 け止めを使用しても日焼けしているような日に日焼けオイルを塗りたくっていま す。海の上では太陽光線の海面からの照り返しもあって、相当きつい日差しをあ びます。彼らは帰ったらヤケドしているのに気が付くでしょう。さらに彼らは、 なんか勘違いしたような場違いなオンナを乗せます。プラスチックの造花の付い たサンダルを履いて、キャピキャピしている見るからに*[検閲削除]*、というオ ンナです。 そしていかにも嬉しそうに出艇していきます。ライジャケすら着ていないヤツも います。ヨットに女のコを乗せる時には事前にヨットについての知識を教えてお くべきです。彼らの決定的な特徴は、天候と航法と艤装に無知、ということにな ります。 一般の BW 派なら、マリンスポーツは命がかかっていますから、天候と航法と艤 装にはそれなりの知識は持っています。また、何度か悪天候に出会うと、ヨット に乗った時の目線、顔つき、姿勢がキチンとしています。ヤマハ派は他の艇に出 会うとオドオドした感じになります。ウインドサーファーに“スタボー!”をか けられるのもこのタイプです。 彼らの操船技術はヘタです。ヘタというより自分の技術を客観的に把握していま せん。 つまり、この風速/波高で自分は満足に操船できるか、生きて再び地面を 踏めるか、そのために自分の体力は充分か、ということを冷静に考えません。 せっかく早起きして渋滞を避けてここまで来たんだから艇に乗らなきゃソンだ、 とばかりに無茶な出艇をしがちです。 日本近海が最も危険な5月頃にウエットスーツやドライスーツも着ないで出艇し て急に天候が変わって、小さめのメイストームをくらってレスキューされるのも このタイプです。 レスキューされるころには、あんなにキャピキャピしてた女のコが、もう見るも 無残な姿に成り果てています。 危ないな、と思ったらガンとして出艇しない、あるいは海上で危ないな、と感じ たら早々に陸に上がる、というのはひとつの見識だし技術力です。レスキューさ れるというはの他人に迷惑をかけることです。 しかし、他の人が強風でカッ飛んでるのを見れば自分もそうなりたいと思うでし ょう。多少困難な状況で艇を走らせて練習もしたいでしょう。それには、どこか のクラブに所属してクラブのレスキューボートが見える範囲で繰り返し、繰り返 し練習するしかありません。 山やその他の陸上のスポーツと違って、海には初心者用の海というのがありませ ん。上手な人にも下手な人にも同じ環境を強いるのです。 強風を乗りこなせればディンギーで遠くまでクルージンクできるし、なにより自 信につながります。大事なのは強風を乗りこなせるようになりたいか、それとも 強風なら出艇しないか、はっきり自分自身の乗り方をきめることです。 さて、一方レース派はヨットレースに楽しみを感じています。レース派のヨット のシーズンは春夏秋冬、フォーシーズンです。 ヨットレースにはいろいろな種類があります。先日、世界中を沸かせたアメリカ ズ・カップは記憶に新しいことと思います。 ヨットレースの大規模なものは地球一周(世界一周とは言わない)レースから小 規模なものは、ヨットクラブ内で行われるクラブレースまであります。レースの 種類には定められた三角形のコースを回るレース(アメリカズ・カップもこれで す。オリンピック・コースとも呼びます)とどこかに行く、あるいは行って帰っ てくる、というものがあります。太平洋横断レースやエボシ岩回航レースなどで す。 レースで何を競うかというと、これは速さです。他人よりも早くフィニッシュ・ ライン(ヨットレースの世界ではゴールとは言わずにフィニッシュと言います) を越えることがすべてです。そのためには速い艇、風と潮に合わせた艤装、調 節、そして効果的な戦術が必要になります。 しかしながら、みんながみんな思い思いに速い艇でレースに出れば混乱は必定で す。そこでヨットのはクラスというものがあります。日本語では『級』と呼んで います。そしてクラスにはクラスルールというものが定められていて艇の大きさ や重さ、セイル面積、水線長、改造できる範囲などが定められています。厳しい クラスになるとブロック(ヨットでは滑車のことをこう言います)のメーカーか ら品番まできまっています。ルーズなクラスでは、セイル面積と水線長の関係が、 ある公式に当てはまればいい、というものもあります。 基本的に同じ性能の艇、つまりひとつのクラスで行うレースがあります。これを ワンデザイン・レース、またはクラス名を冠して呼びます。このようなレースの 勝敗は、艇の艤装のチューニング、戦術、操船技術で決まります。 また、いろいろなクラスの艇が交じったレースもあります。これをオープンレー ス、またはオープンレガッタ、といいます。レガッタとは艇のレース一般の呼び 名です。ではオープンレースを行えば艇の基本的な速さが速い艇、つまりセイル 面積が大きく水線長が長い艇、がいつでも優勝してしまいそうな感じがしますが、 そこにはレーティング、という考え方が導入されています。ゴルフのハンディキ ャップを思い出していただくとわかりやすいと思います。速い艇には公式に定め られたハンディキャップがつくのです。従って、遅い艇も速い艇も公平にレース ができます。オープンレースでは、着順のほかに修正順位というものがあって、 最終的なレースの結果は修正順位で決まります。それでも、他人より早くフィニ ッシュするのは快感です。着順1位はファーストホームした艇、ということで栄 誉があります。 風によって個々の艇の速さが違います。それなのに一概にレーティングで順位が 決まる、というのは不公平な感じもします。そういう人はファーストホームにし か順位の価値を見いだしません。修正順位などまやかしの順位だ、と言う人もい ます。 ダクロンセールのトリマラン・クルーザーで IOR ボートの海太郎を《ブ チ抜いてやる》と中指を立てて豪語するのもこのタイプです。 しかしながら、レース派とはいえも綺麗な景色は好きだし感動もします。もちろ んレース派もクルージングして楽しんだりもしますし BW 派と同じ位スケベです。 ディンギーのレース派がクルージングしているときの服装は、ライジャケは必ず 着用し、足にはセイリング・ブーツです。ライジャケもヤマハの艇を買うと貰え るライジャケはあまり好んで着ません。そして二人乗りの艇にせいぜい三人乗り です。ちょっと寒かったり、天候が悪そうなときはすぐにウエットスーツやオイ ルスキン(日本語で合羽です)、ドライスーツを着用します。艇は絶対ヤマハを 避けます。他のスポーツではヤマハはそこそこのブランドイメージを確立してい ますがヨットの世界ではバカにされています。私一人がヤマハをバカにしている わけではありません。
見栄を張りたければディンギーよりクルーザーのほうが見栄が張れると思うのは 間違いです。一般的にいって我々クラスの給与所得者がクルーザーをひとりで所 有し三浦半島で維持することは極めて困難です。ほとんど不可能です。そこで共 同オーナーとなりますが、貧乏くさいのであまり世間から尊敬されません。比較 的高価なディンギーのほうが尊敬されます。 高価なディンギーはそれなりに/相当に高速で、強風のときはそこらのパワーボート(この世界ではモーターボートとは言いません)を追い抜いてしまいます。てきとうに帆走しているクルーザーも追い抜いてしまいます。 お金持ちは別です。大型クルーザーにペイド・クルーを雇ってクルージングして いるヒトには何もいいません。あわよくばお近付きになって、その艇に乗せてほ しいとも思います。 |