今日、生まれて初めて飛行機(セスナ152)を操縦した。 地上滑走から離陸、そして 着陸までを「俺が」操縦したのである。

その感動の体験を記しておきたい。

実際に空を飛んでいたのは0.7時間。この時間は 俺の正式な飛行時間[1]としてカウントされるのだ。 俺はもうパイロットなのだ。フライトログブックも持ってる ちゃんとしたパイロットなのだ。正確にはStudent Pilotだが パイロットには違いない。F1ドライバーも初心者マークドライバーも ドライバーという点では同じなのといっしょだ。

[1]:飛行時間の定義は「航空機が離陸の目的をもって、 自己の力によって最初に動き出す瞬間から、飛行終了後に静止にいたる瞬間までの総時間」

俺の飛行記録は合衆国のものだけでなく 日本の運輸省航空局技術部乗員課監修の航空機乗組員飛行日誌[2]にも 記録されているのだ。もちろん教官の署名入で。

[2]:この日誌は2,100円もする。


会社の同僚に教わった エアアコード・フライトスクールに出かけた。 アポイントをとってあるわけではない。まあ行けばなんとかなるだろう。 入学できなくても 軽飛行機での遊覧飛行くらいはしてもらえるだろう、 そんな軽い気持で出かけた。

サンノゼのリードヒルビュー空港まで車を走らせ、 スクールのオフィスを訪れた。

「ここでトレーニングを受けたいんだけど」 と(もちろん英語で)言ったら
「オーケー」
「おっっと、その前に、your language は? 日本語?」 て聞くもんだから、当然
「イエス」
である。それから先は所長の、名刺の肩書きはプレジデントの 脇田さんに通してもらった。 脇田さんは同僚のこともちゃんと覚えていた。

いろいろ入学とライセンスの話を聞いたあとは さっそくデモフライトをしてもらえることになった。 もちろん俺はこれがしたくて来たわけだ。

デモフライトの内容はグランド30分フライト30分である。 グランドというのは地上での説明である。


機体の周りをチェックリストに従って点検。 それとその箇所を点検する理由を聞く。 機体は2人乗りのセスナ152。 だいたい30分くらいかけて機体を一回りした。

機体を止めてあるロープをはずして 人力で機体を駐機してあるところから 5メートルくらい移動させる。 それから俺が左側の機長席に乗り込む。訓練生席ともいう。 教官は右側の席で指示をだす。

乗り込んだらエンジン始動前のチェック。 イグニッションスイッチを回してエンジン始動。 ところが俺の乗った登録番号49858のセスナ152は 一発でかからなかった。 何度かトライしていたらバッテリーがあがってしまった。

バッテリー交換である。

交換が済んで、再び始動。なかなかかからない。 それもまた楽しいものだ。 エンジンってのひとつひとつ癖があるもんだ。 始動させるにはコツがあって、 それは儀式のようなものである。

登録番号49858の名誉のために付け加えると たいていは一発でかかるそうである。

さてやっと Avico Lycoming社製 O-235-L2C型空冷対向4気筒エンジン[3]が かかった。 ブルルルルン。ブルンブルンだ。 目の前で元気よくプロペラが回っている。うれしくなってくる。 ちなみにプロペラはMcCauly Accessory Division社製の 1A103/TCM6958型である。

[3]:排気量は233.3 cubic inch。
   すなわち233.3*(2.5399**3)=3822.6505
   だいたい3900ccである。

タキシング(地上滑走)開始。エプロンから滑走路へと向かう。

タキシング中の飛行機はラダーペダルで 操作する。しかし、目の前にハンドル状の操縦かんがあるので ついそっちを動かしてしまう。当然機体の向きは変わらない。 ペダルを踏んで向きを変える。これは難しい。

滑走路に来た。停止線で止まる。

教官が管制官とやりとりしているが うまく聞き取れない

最終着陸体制に入っている飛行機があったので それが着陸してから我々の番になる。

滑走路に機首を向けて スロットルレバーをいっぱいに押し込む。フルスロットルだ。 機首がふらつく。教官が直してくれるのがわかる。 滑走路前方を見てなんとか真っすぐ走らせるのに精一杯だ。 教官から操縦かんをひけ、といわれて 操縦かんをゆっくり引いたら、機首が上を向いて離陸した。
おーーーーーーーーーーーーーーーーーー、飛んだぜ。

計器など見る余裕はない。 教官に指示された雲めがけて飛んでいく。

3000フィート程度まで上昇して安定してから 旋回の指示がでる。

5度バンクしての旋回。
10度バンクしての180度旋回。
30度バンクしての360度旋回。

両手で操縦かんを動かしたくなるが 右手は必ずスロットルレバー。

船と同じだな旋回から直進に戻るフィーリングは。 コンパスよりも景色を重視してコース取りするのも。 でもこれが3次元なんだよ。飛行機は。

感動だ。俺が。この俺の腕の動きに機体が反応している。 空を飛んでいるんだ。俺が。飛行機を飛ばしているんだ。 ものすごく楽しい。思っていた以上に楽しい。 フライトシミュレータの比ではない。

中学生のころに初めてバイクに乗ったときのような感動だ。 いやそれ以上だ。船でも車でも味わえなかった感動だ。

教官の言うとおりに飛ばしながら またたくまに時間が過ぎていく。どのくらい過ぎたのかわからない。

降下しながら滑走路にむかう。霧が、もやが、霞がかかっているので 滑走路が見にくい。太陽に向かっているので余計みにくい。

言われたままに高度を落としていったら見えてきた。

コンパスでヘディング(機首方向)を指示される。 着陸進入コースに乗った。 毎分500フィートで降下していく。 エンジンの回転数は1500だ。フラップは段階的に降ろしていって いまではフルフラップだ。20度(?) 滑走路に近づく。教官が指示出すと同時に 自分の側の操縦かんを動かしているのがわかる。 それについていく。

スロットルオフ。

地面効果で失速速度以下で機体が浮いている。(たぶん。 計器を見る余裕はなかった) 機首起こし。失速。同時に主脚がタッチダウン。

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。着陸したぜ。
すげーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

機首をあげたままに しておく。やがて前輪がタッチダウン。まだ操縦かんは 引いたまま。意外と重い。

ふたたびタキシングで来た場所に帰るんだが もう舞い上がっていて位置関係がわからない。 教官の言うがままに動かす。

帰ってきたぜ。

素晴しい体験をした、というのが頭では理解できていても 実感がともなってこない。 すごく楽しかった、という感じがある。 でもそれがどういう種類の楽しさなのか、うまく消化できない。 生まれて初めて感じる種類のものであることは確かだ。 興奮が続いている。

なんてたって飛行機を操縦するのは初めての経験なのだ。 フライトシミュレータはVSTOL飛鳥のを動かしたとはいえ 実機は初めてだ。Macintoshのフライトシミュレータ歴が 10年あるとはいえ実機は初めてなのだ。

今晩一晩考えて、気が変わらなければ 明日入学手続きをすることにして スクールを後にした。


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