1. フネに名前をつける
フネに名前をつけるときに考えたのは、聞き取りやすいように一般に知られている普通の名詞で、発音しやすいものを、ということでした。
フネを購入し、オーナーとなったからには、場合によっては「○○の永松です」(○○はフネの名前)と名乗るシーンもあると思います。そういうときに、言いやすくて聞き間違いされにくい名前、省略されにくい名前にしたいと思ったのでした。よく知られている名詞なら、多少聞き取れなくても前後の音から補ってもらえるだろうし、4音節以下の名詞なら略されることもないだろうとも思いました。
フネの名前の候補として、我が家の最終選考まで残ったのは以下の10個の名前でした。
・翔鶴(しょうかく) |
・瑞鶴(ずいかく) |
・飛龍(ひりゅう) |
・蒼龍(そうりゅう) |
・福寿草(ふくじゅそう) |
・福寿丸(ふくじゅまる) |
・福龍丸(ふくりゅうまる) |
・初花(はつはな) |
・ひまわり |
・唐草(からくさ) |
次点:火焔太鼓(かえんだいこ) |
個人的には「火焔太鼓」がよかったのですが、女房の賛同が得られずに断念しました。
めでたい名前をつけたいと思ったので、そういう字面の名前が多く残りました。旧日本海軍の空母名が4つも残り、「翔鶴」「瑞鶴」などは実にいい名前ですが、残念がながら、これらの名前は最終選考の初期段階で落とされました。次に落とされたのが、「福」の字がつくものでした。
選考の過程で、意味や字面よりも音を重要視するようになりました。
残ったのは「初花」「ひまわり」「唐草」です。ちなみにこれらの単語の意味はこちらにあります。
「ひまわり」が最初に落ちて、「初花」「唐草」で迷ったのですが、発音のしやすさと、より普通に知られている名詞であるということで「唐草」にしました。
単語を言葉として発声すると、その音にはイメージがあります。ききかじりの知識ですが、サ行にはさわやかさ、カ行やタ行は力強さ、マ行やハ行は優しさを感じると言われています。たとえば「ゴンザレス」や「権助(ゴンスケ)」にはなんとなく、マッチョで力強い男のイメージがあります。
そのようにイメージしてしまうのは、濁音のせいなのです。ゴンザレスの場合、力強さのカ行の「コ」に濁点がついて、「ゴ」。濁点によって音が力強くなります。しかもゴンザレスには、「ゴ」の他に「ザ」という濁点を持った音もあります。一つの単語の中に二つも濁点の音があるのです。それを打ち消すといわれている「イ段(いきしちに・・)」もありません。
唐草は力強さのカ行から「カ」と「ク」、爽やかさのサ行から「サ」が使われています。ということで、「からくさ」は力強くて爽やかな語感であるといえます。
2. 唐草にいたる話
唐草という名前は、古伊万里染め付け絵皿の唐草文様の唐草をイメージしてつけました。以下は唐草にまつわるお話です。
2.1. 九州旅行
何年か前に九州を旅行しました。
往きは車でしたが、帰りは奮発してフェリーの特等を奢りました。そのフェリーの特等はすごい部屋でした。とにかく広いんです。なんでもない空間がとても広いんです。もう無駄に広いという感じです。別な言い方とすると、とても贅沢な広さなんです。普通のマンションの部屋(6,70平米)くらいはあると思います。窓もたくさんあって明るいし、景色もいいし、専用のバスルーム(これも広い)もついてるし。とっても快適でした。
それはさておき、その旅行で有田の佐賀県立九州陶磁文化館 [1]に寄り、江戸時代の膨大な有田焼のコレクション、「柴田夫妻コレクション」[2]を見ました。
[1]:佐賀県立九州陶磁文化館<http://www.arita.or.jp/aritaware/miru/bijyutukan/kyutou/kyutou.html>
[2]:柴田夫妻コレクション<http://www.arita.or.jp/aritaware/hito/meiyo/shibata.html>
「柴田夫妻コレクション」はじつにすばらしいコレクションでした。私の今後の食器人生を決める出来事でした。今までは、陶器も磁器もいっしょくたに「食器」として考えていましたが、「柴田夫妻コレクション」を見たことによって、我が家の食器は染め付けの磁器、と決めました。
料理は器に盛られてこそ料理です。器の良し悪しが料理のできに影響します。また、食事の楽しみ、食卓の楽しみにとって器はとても大事なものだということは、経験からなんとなくわかります。しかし、どんな器がいいのか? どういうふうに揃えていくのがいいのか?
皆目わかりませんでした。
織部だ、萩だ、瀬戸だ、九谷だ、唐津だ、有田だ、古伊万里だと言われてもわかりません。それらの焼き物が食器となって、料理を盛られて出てきたときに、その食器が好きか嫌いか、どうでもいいか、ということは判断できるにしても、自分から進んで食器を集める、食卓をコーディネイトするなどということはまったく出来そうもありませんでした。お手上げでした。
しかし、「柴田夫妻コレクション」によって、私は染め付けに目覚めました。
染め付けは青と白(ちなみに染め付けを英語ではBlue and Whiteといいます)なので、ほとんどすべての料理に合います。料理を盛ったときに、器がうるさくなりません。料理を引き立てます。器のおかげで料理が粋に見えます(変な器に盛っちゃうと料理が野暮ったく見えますよね)。
2.2 染め付け
ところで、染め付けといえば元の時代(1271〜1368)の染め付けがとても有名ですが、これはもう別な世界のものです。我々は、博物館や美術館でガラス越しにしか見ることはできないです。
伊万里焼きは1598年(慶重3年)に朝鮮から渡来(渡来といっても自主的に来日したのではなくて、秀吉の2度目の朝鮮出兵(慶重の役)のときに連れてこられた。それまでは日本に磁器はなかった)した李参平から始まります。それ以前は中国/朝鮮からの輸入でした。
古伊万里染め付け絵皿とはいえ、数多く出回っている一般的なものは、無名な職工が形を取り、模様を描いています。有名な絵師が絵皿を作っているのではありません。とはいえ、柄は手描きですから、名も知らぬ描き手のウデの差がそのまま現われます。
皿に描かれた絵には、一枚一枚個性があります。
唐草文様はくり返しが多く、ミニマルアート的な部分があるので、描き手が飽きてきたり、手本を写しながら縮こまって描いているのはスグわかります。それとは逆に、のびのびとした線で描かれているものに出会うと嬉しくなります。
蛸唐草文様は近年人気高く、下手なものにもかなりの値段がついていたりします。左の蛸唐草はどちらもいい物ですが、ヘタなのはマジックで描いたゲジゲジ模様のように見えるものもあります。
明治以降になると、「印判(いんばん)」と呼ばれる柄が登場します。これは手書きではなくて、印判の名の通り、シルクスクリーンのような技法で描かれています。明治から昭和初期くらいに大量生産されたので安く手に入ります。印判は値段が安くて面白い柄も多いので、これはこれで趣があります。切り絵みたいな味があります。左の写真はウチにあるお気に入りの印判の中皿です。この皿はとりわけカレーがよく合います。カレーと印判。なかなかいい相性だと思います。
染め付けは柄のおもしろさもありますが、色のおもしろさもあります。
その磁器が作られた時代によって、色の傾向というものがあります。
同じ藍色の中でも個々の色合いに違いがあります。この違いから、ひとつひとつの磁器が作られるときに出会った炎の違いを感じます。
100年、200年、300年前の炎が作り上げたものが、今この目の前にあるのかと思うと、いろいろなイメージが胸の中を去来します。
江戸時代初期の伊万里焼きの染め付けの素朴な色合いは素敵です。薄くてちょっと黒っぽい藍色です。じつにいい色です。が、この時代のものを普段使いの食器とすることはできないでしょう。この時代のものは数が少ないですし、価格は「食器」の値段ではないです。
実際に古伊万里の食器でテーブルコーディネイトするときは、なるべく時代の近いものを合わせたほうが無難です。現代物と古伊万里をいっしょにするときは、慎重に合わせないと、食卓がちぐはぐな感じがします。
3. 骨董市
さて、その九州旅行から帰ってきて、近所の神社の境内でやっている骨董市に行ってみました。骨董市なんて行くのは初めてです。
買ってしまいました。5客で5万5千円の古伊万里のなます鉢[1]です。買ったときは目の前がクラクラしましたね。だって5万5千円ですもの。当時の(もちろん今でも)私にとってはかなり高価な買い物でした。
[1]:なます鉢とは、小型の向付(むこうづけ[2])風の取り皿で、直径15センチ前後のやや深めの皿です。
[2]:向こう付けとは、日本料理の膳の向こう側に置いた器です。もちろん器には料理が入ってます。ちょっとした刺身や酢の物なんかが盛られていることが多いです。小型の鉢や大きめの猪口などでも、取り合わせの調和によっては向こう付けとして使えます。
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柄は、染め付けの「みじん唐草」という唐草模様の一種で、小さなUの字が繰り返し繰り返し描かれているのが背景になっていて、その合間を縫うように蔓が描かれています。
会場内の別なお店にも同じようなみじん唐草のなます皿5客で2万5千円、というのもあったのですが、柄がいまいちでした。こっちのみじん唐草は、描き手が描きながら飽きてきている感じがするんですよ。線に力がないというか。値段は半額以下だけど、2万5千円だって高価なことには代わりはないです。でもこれだったらいらない。呉須の発色もなんか半生というか中途半端な感じでした。
蛸唐草のもありましたが、ちょっとゲジゲジ感が強い模様でした。蛸唐草は人気の柄なので、強気の値段がついていましたが、ちょっと高すぎると思います。昨今の蛸唐草ならなんでも高いという風潮はどうしちゃったんでしょうね。私は買わないから関係ないですけど。
冷静になるために、いったん会場を後にして、近くの蕎麦屋で食事しました。
会場内にもどって、ほかの物も見て歩き、何件かめぼしをつけた骨董屋との会話を楽しんではいましたが、頭の中は例のなます鉢のことが気になっていました。
再びなます鉢の店に行って、じっくり見せてもらうい、店の親父にいろいろ話を聞きました。
手にとってじっくり見たら、もうだめでしたね。買いました。
このなます鉢は、大きさといい、深さといい実に使いでがあります。和洋中のどんな料理にも使えます。それにこの器の染め付けの発色が実にいいので、料理がとても美味しく見えます。買ってよかったです。我が家の食卓では一番使われている皿です。煮物が入ったり、刺身が乗ったり、大皿料理の取り皿になったり、鍋料理の取り皿になったり、と大活躍です。
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