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新島クルーズ(往路)
日付 2005年7月22日(金)

天気 薄曇りのち曇り
風向 東〜北東 風力 0〜5 波高 0.5〜2.5
行先 新島港
出港時刻 03:10 帰港時刻(寄港)12:30
乗員 2名


午前2時半起床。

これから夜間出港だと思うと少し緊張する。

おにぎりを食べ、念のため酔い止めの薬も飲む。

即乾下着の上に長袖の薄手のフリース着て、ライジャケとハーネスを装着。

艤装は昨日中に終えているが、もう一度点検。

今日は満月だ。でも月はおぼろにしか見えない。

前回の夜間出港で学習したことをふまえて出港。前回は半袖で出てしまって、少し寒かったので今回は長袖を着込んだ。これも前回学んだことのひとつだ。

風は穏やか。うれしい。

月がよく見えない。残念。

夜光虫も少ない感じ。航跡の泡全体が光るということはない。6分光くらいか。

沖に出てメインセールアップ。港内で上げてくるかどうか迷ったが、広い海面で上げることにした。暗い港ではワッチのほうが大切との判断だ。

田子島をかわしたあたりで、雲間から月が顔を出した。月が海面に長い光の帯を作った。ムーンロードだ。

快晴の夜空に青白く輝く満月とムーンロード、というのを見たかったんだが、大気に水蒸気が多いせいか、赤っぽい色温度の低い月だった。

速度は4ノットから時に3ノット台だ。逆潮きつし。

松崎沖あたりで夜が開けた。

波勝崎あたりで山の上から太陽が出てきた。穏やかな海況の中、海から見る日の出だ。願いが叶ったような満たされた気持ちになる。やはり夜は怖い。

日の出(1)

日の出(2)

日の出(3)

三ッ石を超えたあたりで、風が出てきたのでエンジンをカットして、帆走する。アビームより上らせたくらいにするとバウは神津島を向く。

三ツ石を超えた
小さく見える島が鰹島

石井さんの話では、潮がきついので、新島に向けてると利島に着いてしまうので、神津島に向けていけば、新島に着くというアドバイスをもらっている。つまり、丁度いい風ということだ。

フルメイン、フルジェノアで快適なセーリング。6ノット前後だ。

確かに、ヘディングは神津島のほうを向いているが、GPSで進行方向を見ると新島へオンコースだ。

新島に向かってはいるが、霧で島影は全然見えない。神津島も見えない。

しばらくして、伊豆の陸影も見えなくなった。360度見渡すかぎり水平線になった。

この状況ではGPSがなければ島に向かう航海はできないだろう。GPSはバックアップも持ってきている。

安いハンディのGPSでもヘディングと実際の進路の差がリアルタイムにわかるんだからすごい。同じことを測位、船首方向、速度から計算していたら大変である。ありがたきかなテクノロジー。

4時間くらい帆走したが、やがて風がなくなり、ジェノアが垂れてきたので、再びエンジンを使う。

新島はまだ見えない。

長い周期のうねりが西から入っている。台風の余波だ。とても長い周期だ。波高は2メートルから2.5メートルくらいか。

新島まであと5マイルくらいになっても島影が見えない。

チャートで位置を確認する。今目指しているのは、新島港の灯台である。このポイントの入力は何度も確認して入力したので、信頼している。今もチャートと港湾案内の両方で確認した。合っている。

怖いのは地内島である。新島港へのアプローチ角度が何度を超えると地内島の危険水域に入るかチェックして、現在の進路と比べて確認する。大丈夫だ。このままでオッケーだ。

と突然、霧の上空に新島の山が見えた。女房が先にみつけた。山の稜線は私の視線のはるか上にあった。

島影が見えてから、風が上がってきた。

ワンポン入れる。

港湾案内で新島の見え方を比べる。見えている右側にも山があるはずだが、それはまだ見えない。

しばらくしておぼろげながら、輪郭が見えてきた。灯台はまだ見えない。

地内島

左から本船。

新島港に着くのは、本船のほうが早いとは思うが、向こうは着岸で時間をとるだろうから、こちらも少しスピードを落としかげんにする。

あぜりあ丸だ。安良里のドックで見たことあるような。

風がどんどん上がってきた。東よりの風が新島港から吹いてくる。新島港は二つの山の間の谷のようなところにある。これはその谷で増速された風か。手荒い港だ。

こんな風では係留できない可能性すらある。

とりあえず港に入り、様子を見る。だめなら若郷に行くか帰るかだ。

港の中に入ると風が収まった。

港に入って気がついたが、この時間は大潮の干潮だ。岸壁が相当高い。そして水深が浅い。港内の水深が所々3mを切る。3mを切ると水深計のアラームが鳴る。

最近新島港に来た「阿武隈(ソレイユルボン)」の長浜さんの話によれば、現在の新島港は港湾案内とは違っていると聞いていた。その話で聞いていたとおり、突堤というか桟橋が追加されていた。その片面にはプレジャー専用岸壁である旨が書かれた看板が出ている。これが噂の看板か。

長浜さんのアドバイスに従い、黒と黄色の縞模様の岸壁に着ける。ここの岸壁の角は丸められて、さらにプラスチックでコーティングされてツルツルになっている。コンクリートむき出しではない。索にやさしい。

今は岸壁が高いので、はしごのあるところじゃないと上陸できない。

先客はだれもいない。

岸壁のはしごのあたりに係留する。

大潮の干潮

潮が上がってきても風が岸壁側からなので、索を長めにしておけば、フネが岸壁に押し付けられないので快適だ。これはラッキー。

フネを固めて、昼食。カップ麺。

船内整頓して女房が新島探検に出かけた。私はフネで休む。

パワーボートが来た。着岸時にもやいを取るのを手伝う。ベイサイドからだそうだ。

乗って来た人は、しばらくしてタクシーで食事にでも行ったようだ。

1時間くらい後にタクシーで戻ってきた。すぐ出港していった。ぶつけた。

そのあと1時間くらいして女房が帰ってきた。

日よけのオーニングしたまま航海していたとおぼしきヨットが入ってきた。このフネの舫も手伝おうと岸壁に上がって待つ。

アンカーレッコしたりなんだかんだで、けっこうたいへんになりながら、なんとか係留。このフネもぶつけた。

風がけっこうある。5m/sくらいあるんじゃなかろうか。泊地で風というのはほんとうにイヤなものだ。

風は唐草の1時方向くらいから吹いている。

岸壁のすれ止め用にチェーンを使って、バウ側に長めの舫も取る。もう1本取る。

風が上がってきたとはいっても、岸壁に吹き寄せられる風でないのがありがたい。

キャビンで寝てたら、大型のパワーボートがやってきた。唐草の真後ろに横付けした。

熱海から来たそうだ。

17時半くらいに、天気予報を取りにPowerBookを背負ってケータイのつながるところにいく。船内は圏外なので、アンテナが立つところを探して港をうろつく。

天気予報を取って安心した。

この風は収まらないことがわかった。これからずっと吹き続ける。そして明日の午前中に少し吹き上がる。台風が近づいているので、明後日以降はうねりが大きくなりそうだ。帰るなら明日だ。

先の気象の傾向がわからないと、いつまでこの風が吹くんだとか、風がなかなか落ちないとか、不安になるが、吹き続けるとわかっていれば、それなりの対策を取るだけだ。情報不足が不安の元だ。

明日は東の風が朝方6m/sで昼頃までに8m/sに上がるという予報。8m/sといえば強風だ。ブローではその倍くらい吹くこともあるだろう。ところがまたまたラッキーなことに風向が東なので、上らずに帰れそうだ。このくらい吹いても大丈夫だろう。相模湾に帰る人はたいへんだろうけど、我々は駿河湾だ。上らなくてもいい。

ほんとはこんなに吹いてほしくないけど。

隣のフネは夜中までエンジンかけてた。クーラーか。

起きたり寝たりしながら、体をやすめる。

NHKのラジオをかけておく。

リギンが風で鳴く。緊張する。不安だ。逃げ出したい。今このときこの場所にいたくない。しかし、このフネと女房を私が安良里まで安全に帰さなくてはならない。

緊張で食欲もない。女房が買ってきてくれたビールも半分しか飲めなかった。

女房と2人で島に来た。素人2人で力を合わせて島に渡ってきた。ひとつの夢がかなった。そういううれしさもある。でも不安のほうが大きい。達成感のようなものは無い。帰るまでは航海途中だと思っているせいかもしれない。

私は航海中に自分自身を恃(たの)むことをしない。信用できないのだ。私のこの頭と体力は私の信用を何度も裏切ってきている。

私にできることは、努めて冷静になることだけだ。

ロープやシート、ブロック、コンパス、水深計などと同じように私は唐草のパーツである。パーツはいつだって冷静に職務を遂行している。そのことをわたしも見習わねばならない。わたしは、フネの状況や海況を観察し、情報を集め、航海を継続するための唐草のパーツだ。観察して判断して決断して実行するパーツだ。(そしてしょっちゅう反省している)

寝る前に港のトイレに行く。ゆるい。緊張のせいだと思う。ビオフェルミンを飲む。


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