中秋の名月クルーズ
今日は満月のムーンロードを見るつもりだ。時あたかも中秋の名月。素晴らしいものが見れそうだ。
昼食を熱函道路沿いの気になるラーメン屋で食べるために、ウチを11時頃出る。 気になるラーメン屋というのは、熱函道路の函南よりにある「みそラーメン」という看板の出ている店だ。本来なら店の名前が書かれているところに大きく「みそラーメン」と書かれているのだ。店の名前が「みそラーメン」なのかもしれないけど、そんな店の名前はアリなのか? 美味い。店はきたないが、味はみごと。味噌ラーメン一筋という感じの豊かな味わいのスープだった。こういう店が会社の近くにあったら、間違いなく行列だ。 1400フネ着。
夜間出港に備えて、明るいうちに出航準備を整える。着るものや装着するものの準備点検する。 明日は中秋の名月なので、明日未明に出港してムーンロードを堪能してくるのだ。 準備が整ったので、デッキにオーニングをかけて、飲み食いする。いい天気だ。初秋の好天。 日が暮れてきたのでオーニングを片付けてキャビンに入る。
午前2時に目覚ましで起きる。 パンを食べて、お茶を飲み、カッパを着てライジャケとハーネス装着。ハーネスにはストロボライトも装着。頭にはヘッドランプを装着。 穏やかな天候だが、念のため酔い止めのトラベルミンを飲む。 午前3時出港。 期待通りのムーンロードだ。見事な月だ。南中を過ぎて西に傾きだしている。
なにか荘厳な気持ちなるかと思って期待していたのだが、月は天空の丸い蛍光灯のように見えた。 蛍光灯の街灯のような月だった。色温度が高くて真っ白だった。月はまぶしいくらいに明るくて、月の模様もよく見えない。 ムーンロードは銀色の道だった。回りの水の色とのコントラストが強烈だ。 中秋の名月のムーンロードを海上で見たら自分はどんなふうに感じるのか、どんな形容詞が浮かんでくるのかと、そういう期待があった。 あまりに感動して、ログブックの記録がしつこくて冗長な形容詞の羅列になるのではないかと思っていた。 しかし実際に見てみると「静かな住宅地の街灯のようだ」というのが私の感じたところだった。 わたしには詩心が無いのがわかった。 長い航海で月の満ち欠けや天候の変化を毎晩見ていれば、同じこの景色でもきっと違う感じを持つのだろう、と長期航海者の心に思いをはせてみる。いつかそんな思いで月を観てみたいものだ。 空の月から陸の景色に目を転じると、山々が月の光を浴びて青のグラデーションの連なりとなっている。美しい。こっちのほうが綺麗で神秘的だった。 「冷たい月の光」というのは、月のほうではなく、その光を浴びたモノの見え方なのかもしれない。理屈でいうと色温度が高くて輝度が低いせいか。それにしても詩才ないな。
沖に出てエンジンの回転をあげたが、2500rpmまでしか上がらない。ほぼフルスロットルで2500rpmだ。おかしい。無負荷のほぼフルスロットルでは、ちゃんと3000rpm以上回る。後進でもちゃんと上がる。 ペラに何か絡んだかと思い、エンジン中立にして惰性で進ませて、ホールディングペラを閉じてみるが現象かわらず。 しかたがないので2000rpmよりやや低いくらいで航行する。GPSでは3ノット程度だ。 それにしても、月だ。満月だ。中秋だ。 海はおだやか。現実感を伴わないほどの景色だ。 空が白み始めると、月は赤い月となって西に沈んでいった。赤い月。ルナロッサだ。赤い月のムーンロードは、夜に君臨して闇を照らしていた輝きとは違って、穏やかで控えめなものだった。
それからしばらく、空には月も太陽もなく、夜があけていった。フネを反転させて、帰港することにする。 エンジンの調子が良ければ、このまま焼津にでも行こうと思っていたのだが。
(あとで分かったのだが、エンジンの回転が上がらなかったのはペラが汚れていたせいだ。新島の後、フネを出していなかったのでペラについた海洋生物が成長してしまったのだ。しかも夏だ。海洋生物の成長にはうってつけだったのだ。フネに行ったらエンジンだけじゃなくて、ペラも回すべきだった) やがて伊豆の山並みから強烈な太陽が上がってきた。 午前6時55分、バース着。
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